29/08/2024
ぼくとねっと(赤星憲一)が請求した住民監査の結果が公表された。
行政行為の違法性(建物を無償譲渡又は自己責任による使用貸借という方式で、三重の赤い屋根や犬飼の長谷のように有効利用させない)や差別行政に怒りを感じる。
ぼくとねっとは、この建物を大野町のレガシーとして、緒方町の旧村役場のように残せなかった事を懺悔する。
鹿児島県の近隣で合併した「さつま町」のように大野郡大野町として大野と朝地と千歳で合併すればよかったのではないかと思う。
以下決定書本文を掲載する。
決 定 書
第1 監査の請求
1 請求の受理
本件住民監査請求(以下「本件請求」という。)については、地方自治法(昭和 22 年法律第 67 号。以下「法」という。)第 242 条に定める要件を具備しているものと認められたので、令和6年1月 16 日付けでこれを受理した。
2 請求人
住所 豊後大野市
3 請求の要旨
豊後大野市職員措置請求書(以下「本件請求書」という。)の記載によれば、本件請求の要旨は、次のとおりである。
令和5年度旧大野公民館解体工事(以下「本件工事」という。)は、工事予算は 60,208,500 円(税込み)であり、工事落札価格は 41,051,250 円 (税抜き)である。
財産の処分は、地域住民全体にとって重大な関心ごとであり、最適な判断が行われるよう進められることが望ましい。前建物所有者の大分県から、その有効利用を図ることを条件に無償譲渡を受けた建物を、老朽化という理由で解体し更地にする場合、逆に、改修工事をして建物を歴史的遺産、レガシーとして、保有することとの比較において、慎重に検討する必要がある。
緒方町の旧緒方村役場や旧緒方町歴史民俗資料館、及び三重町の旧すずかけ寮などの市所有の建物が、1億円、9,000 万円、6,000 万円の改修工事の予算で存続が決定した。 これに対し旧大野公民館は、市議会議員の改選前の判断として、合併特例債による解体が承認された。 よって、現在の新人議員の判断はされていない。 現在の議員の中で内部を肉眼で見た議員は何人いるのか。
請求人が、令和3年4月頃、旧大分県立大野高等学校(以下「旧大野高校」という。)の建物として、内部を動画として撮影し後世に残したい旨を大野支所担当職員に要望したが不許可となり、少なくとも最近まで公民館として利用していたのであるから老朽化を認識できず、工事着工日に著名な彫塑家の甥の玄関壁画を発見し、この建物の保存を図るため、この豊後大野市長(以下「市長」という。)に関する措置を請求するものである。
(1) 市長は、本件工事を事後審査型としたため、9者が最低価格で同額であったため、くじ引きで決定したが、本件工事は、財産の処分が議会により承認された案件による工事であるから、要件設定型一般競争入札(総合評価落札方式)にしなかった点で不当である。
また、旧大野公民館と旧大野高校校舎が同一であると認識した議員は少なく、「公民館の新設による旧大野公民館の解体と誤認したものである。」
と思料し、本契約が不当な契約であると主張するものである。
(2) 住民団体は、令和3年度より、市長に対し、本件校舎を存続させ、有効利用を図る意見を市に具申し、観光庁に対しても令和5年7月 20 日「訪日外国人旅行者周遊促進事業費補助金(歴史的資源を活用した観光まちづくり推進事業)」に応募し、この旨、令和5年8月4日、石野玉僊等の作品展示により「大野高校校舎の解体に反対し有効利用する提案」の資料として改修工事見積書等を提示している。 さて、建物全体を改修し、地下が空洞でない玄関入口部分(全体の2分の1程度、タイル壁画を含む)を保持することにより、支出が抑制される。
もし、本件工事が続行された場合、結果的に豊後大野市(以下「本市」という。)に最大 41,051,250 円の損害が生じる。
よって、
①違法又は不当な契約の締結、
②法第2条第 14 項、費用対効果に関しての不当な公金の支出となり、市長に対し、この本件工事請負契約(以下「本件契約」という。)を解約した上、本件工事の中止の措置を請求する (契約業者には、予算と最低価格の差額数千万円を損害金として支
払えば良いと思われる。)。
4 要件審査
本件請求については、令和6年1月 25 日に要件審査を行った。
法第 242 条第2項は、住民監査請求は、「当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過したときは、これをすることができない。」と規定している。本件請求に係る支出の原因となる契約の締結は、令和5年 11 月 10 日であり、支出負担行為日も同日である。また、当該契約に基づく公金の支出については、本件契約の受注者からの同年 11 月 27 日付けの請求に基づき、同日付で支出命令がなされ、前金払により同年 12 月8日に支出されている。
本件請求に係る請求日は令和6年1月 16 日であり、行為のあった日から1年以内である。
3 よって、本件請求は、法第 242 条所定の要件を具備しているものと認め、監査を行うことを決定した。
第2 監査の実施
1 請求人の証拠の提出及び陳述
法第 242 条第7項の規定に基づき、請求人に対して証拠の提出及び陳述の機会を付与する旨通知し、令和6年2月1日に、請求人が陳述を行った。
2 監査対象事項
本件請求における本件請求書、事実証明書及び陳述の内容から、監査対象は以下のとおりとした。
(1) 請求人は、本件請求書で議会の議決について記載している。そのため、本件契約締結に至るまでの議会の議決について、法令に定められたとおりに議決されているのか監査する。
(2) 市長が、令和5年に締結した、本件契約に係る事実関係の確認、本件契約の違法性又は不当性の存否、本件契約が本市に損害を及ぼすことになるのか、措置を講ずる必要が認められるかについて監査する。
(3) 市長が、令和5年に支出した本件契約に基づく公金の支出(以下「本件支出」という。)に係る事実関係の確認、本件支出の違法性又は不当性の存否、本件支出が本市に損害を及ぼすことになるのか、措置を講ずる必要が認められるかについて監査する。
なお、請求人は、「旧大野高校の建物として内部を動画として撮影し後世に残したい旨を大野支所担当職員に要望したが不許可となり」と本件請求書に記載しているが、住民監査請求は、法の財務の章である第9章に規定されているとおり、行政施策一般を対象とした制度ではなく、あくまで法第 242条第1項に規定される財務会計行為上の違法性又は不当性を対象にし、財務行政の適正を担保する制度である。よって、当該記載の部分については、財
務会計行為ではないため、監査対象とはならない。
また、本件請求については、本件契約の解約及び本件工事の中止の措置を求める請求が含まれていることから、法第 242 条第4項の規定による暫定的停止勧告の適否について検討する必要があると認め、必要な調査検討を行った。不当ではなく、違法であることが相当程度具体的に、請求人が提出した証拠に基づいて疎明されることが必要である。
4しかしながら、本件請求の対象となった本件契約及び本件契約に基づく公金の支出について、違法であると思料するに足りる社会通念上、客観的にみて合理的な理由がなく、また、適正な手続を経て予算措置されたものであることから、本件請求に係る監査結果を決定するまでの間に本件工事の中止に係る暫定的停止勧告をする必要はないと判断した。
3 監査対象機関の監査の実施
本市財政課、まちづくり推進課、大野支所及び本市教育委員会社会教育課を監査対象機関とし、法第 199 条第8項の規定により、令和6年2月 15 日に、監査を実施した。
第3 監査の結果
本件請求については、合議により次のように判断した。
1 主文
本件請求を棄却する。
2 理由
(1) 本件請求の概要について
① 旧大野高校について
旧大野高校は、大正 14 年に、前身となる教育機関が創設され、その後、移管や再編、改称等を繰り返し、昭和 23 年4月に、大分県立大野高等学校として設立された。
昭和 43 年8月 10 日には、本件工事の対象となる、大野高校管理棟(以下「本件管理棟」という。)が落成した。その後、平成 11 年8月に、平成 12 年4月入学者の募集停止が決定され、平成 14 年3月 31 日に閉校となる。
② 大野町中央公民館について
閉校後の平成 15 年4月1日、大分県と旧大野郡大野町とが県有財産譲与契約を締結し、旧大野高校の土地及び校舎等が、社会教育施設等の公共用地等として旧大野郡大野町に譲与された。
その後、県有財産譲与契約書(以下「契約書」という。)に基づき、社会教育施設等として利活用するため、本件管理棟の改修工事が行われ、平成 16 年1月 20 日から平成 17 年3月 30 日までの旧大野郡5町2村の合併による本市発足まで、大野町中央公民館として活用された。
5 なお、請求人が本件請求書で、「前建物所有者の大分県から、その有効利用を図ることを条件に無償譲渡を受けた」との記載があるが、契約書第7条では、「譲与物件を平成 16 年4月1日から7年間引き続き指定用途に供しなければならない。」と定めており、指定用途に供すべき終期は、平成 23 年3月 31 日となる。
③ 本市大野公民館について
市制施行後は、本市大野公民館、本市教育委員会大野支局等として活用された。 しかしながら、築 55 年を経過する本件管理棟は、雨漏りが多発するなど老朽化が著しく、また耐震性もないため、平成 30 年度から開始した支所及び公民館等の庁舎等整備事業の一環として、大野公民館は、令和2年2月 28 日から新築工事が進められ、令和3年1月 25 日に完成し同年3月1日、本市大野町田中 276 番地2から旧大野支所跡地である本市大野町田中 81 番地1へ新築移転した。
通算 17 年1か月余りの期間、市制施行前は大野町中央公民館として、市制施行後は本市大野公民館として活用された本件管理棟、令和3年2月 28 日に公民館としての用途が廃止されることになり、社会教育施設として区分されていた行政財産から行政財産以外の公有財産である普通財産となり、所管が教育委員会社会教育課から普通財産を所管する財政課へと所管替えされた。
④ 豊後大野市公共施設等総合管理計画について
全国的に公共施設等の老朽化対策や対策を実施するための財源確保が大きな課題となる中、平成 26 年4月 22 日に、総務省から公共施設等総合管理計画の策定が要請されるとともに、「公共施設等総合管理計画の策定にあたっての指針」が示された。
公共施設等総合管理計画は、厳しい財政状況が続く中で、今後、人口減少等により公共施設等の利用需要が変化していくことが予想される
ことを踏まえ、早急に公共施設等の全体の状況を把握し、長期的な視点を持って、更新、統廃合及び長寿命化などを計画的に行うことにより、財政負担の軽減及び平準化をするとともに、公共施設等の最適な配置を実現することを目的としている。
総務省からの策定要請を受け、本市では、平成 27 年3月に、公共施設等の総合的かつ計画的な管理に関すること及び施設類型ごとの管理に関する基本的な方針等を取りまとめた、豊後大野市公共施設等総合管理計画(以下「本件計画」という。)を策定している。その後、令和4年3月に改訂された本件計画の第4章の(5)の安全確保の実施方針では、「公共施設における安全確保は、利用者の安全を確保し、資産や情報の保全を目的とした要件です。また万一の事故・事件・災害に遭遇したときに損害を最小限にとどめ俊敏に復旧する体制を、平時から備えるための備えは、施設管理者にとって、最も重要なことです。」と記載しており、また、「点検等により高度の危険性が認められた公共施設等や老朽化等により共用廃止され、かつ今後も利用見込みのない公共施設等については、順次解体を行います。」としている。
さらに、本件計画の第6章の施設類型ごとの管理に関する方針と実施計画では、本件管理棟は普通財産に所管替えされた施設や、市民文化系施設など、いずれの分類にも当てはまらない施設である、その他施設に位置付けられており、「建設から 30 年以上が経過している施設が多く、利活用や維持補修についての方針決定が必要となっている。」と、現状と課題を指摘している。
その他施設に関する今後の方針としては、「公共施設として保有する必要性が低い施設、老朽化が進んでおり今後の利活用が見込めない施設については、貸付けや売却・解体を積極的に検討することで保有面積削減に努めます。」としている。
⑤ 旧公民館の解体について
本市では、平成 30 年度から、それぞれ6か所の支所及び公民館について、新築又は改修による整備事業を進めた。 そのうちの公民館の整備については、令和2年度から令和3年度にかけて新築又は改修により整備が行われた。
一方、用途廃止され、かつ耐震性もなく老朽化した旧支所及び旧公民館については、計画的に、順次解体が進められている。平成 30 年度に旧犬飼支所、令和2年度に旧緒方支所、令和3年度に旧清川支所、旧千歳公民館及び旧犬飼公民館、令和4年度に旧朝地支所が解体された。
また、旧大野公民館については、既に令和3年2月に用途廃止されていたものの、年度間の財政負担を平準化する必要があることから、令和5年度に解体することになった。
⑥ 合併特例債について
合併特例債とは、合併した市町村が新しいまちづくりのために新市建設計画に基づき実施する事業のうち、特に必要と認められる事業に対する財源として借入れすることができる地方債、つまり借入金のことをいう。合併特例債の活用は、合併初年度を含む 10 か年度に限られていた。
その後期限が延長され、本市の活用期限は、令和6年度までとなった。
本市の新市建設計画である大野郡5町2村合併後の新市まちづくり計画の第7章の公共施設の統合整備の章では「活用できない空き施設については財政状況を踏まえながら取壊しを進めます。」と、活用できない空き施設については、合併特例債の充当による取壊しを計画しており、これまで計画的に合併特例債を活用し、施設の整備及び解体等を実施している。
なお、合併特例債は、事業費の 95%まで借り入れることができ、毎年度返済する元利償還金の 70%が普通交付税によって措置される、有利な財源である。
⑦ 本件契約に係る入札等について
本件契約の入札方法は、指名競争入札(事後審査型)であり、落札方式は、価格競争である。入札方法の決定に当たっては、豊後大野市建設工事等競争入札委員会規程(平成 17 年豊後大野市訓令第 44 号)第1条に定める豊後大野市建設工事等競争入札委員会(以下「入札委員会」という。)の所掌事務となっており、本件契約の入札方法の決定に当たっても、入札委員会が事務を行い、会議内容等は市長に報告され、決裁を受けている。
本件契約では、豊後大野市が発注する工事請負契約に係る指名基準(平成 21 年豊後大野市告示第 56 号)に基づき、有資格業者、当該工事施工についての技術的適正、当該工事に対する地理的条件等の事項を総合的に勘案して 10 者を指名している。
なお、指名業者数については、「豊後大野市が発注する建設工事等の入札・契約手続きについて(平成 21 年3月 24 日付け契検第 453 号)」と題する書面(以下「本件手続」という。)で定められている。 本件手続では、4,000 万円以上の設計金額の場合、8者以上を指名することになっており、本件契約においては、10 者を指名している。
次に、予定価格は、税込み 60,208,500 円、最低制限価格は、税込み45,156,375 円である。最低制限価格制度は、地方自治法施行令(昭和 22年政令第 16 号。以下「令」という。)第 167 条の 10 第2項に、「普通地方公共団体の長は、一般競争入札により工事又は製造その他についての請負の契約を締結しようとする場合において、当該契約の内容に適合した履行を確保するため特に必要があると認めるときは、あらかじめ最低制限価格を設けて、予定価格の制限の範囲内で最低の価格をもって申込みをした者を落札者とせず、予定価格の制限の範囲内の価格で最低制限価格以上の価
格をもって申込みをした者のうち最低の価格をもって申込みをした者を落札者とすることができる。」と定めており、令第 167 条の 13 では、「令 第 167 条の 10 の規定は、指名競争入札の場合に準用する。」と定めている。
また、豊後大野市契約規則(平成 17 年豊後大野市規則第 55 号。以下「規則」という。)第 25 条では、「契約担当者は、契約の内容に適合した履行を確保するため必要があると認めるときは、市長の承認を受けて、その契約の種類及び金額に応じ、最低制限価格を設けることができる。」と定めている。
この最低制限価格制度とは、ダンピング受注対策のために設けられた制度であり、ダンピング受注とは、請負代金の額によっては公共工事の適正な施工が通常見込まれない契約の締結をいう。ダンピング受注は、工事の手抜き等を招くことによりその品質の低下が懸念されるほか、下請業者へのしわ寄せ、公共工事に従事する者の賃金その他の労働条件の悪化、安全対策の不徹底等につながりやすく、ひいては建設業の若年入職者の減少の原因となるなど、建設工事の担い手の育成及び確保を困難とし、建設業の健全な発達を阻害するものであることから、これを防止する必要がある。
また、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(平成 12年法律第 127 号)においても、公共工事の入札及び契約の適正化の基本となるべき事項としてダンピング受注の防止が明記されている。
最低制限価格運用基準については、国土交通省が事務局を担当し、その他国の省庁などで構成する、中央公共工事契約制度連絡協議会(以下「中央公契連」という。)において、必要に応じ、最低制限価格の設定基準となる、工事請負契約に係る低入札価格調査基準モデル等の見直しを審議し、総会に付議決定している。
本市の場合、中央公契連の基準に基づいて最低制限価格運用基準(以下「運用基準」という。)を定めており、解体工事に関しては、最低の割合である 10 分の 7.5 とすると定めているため、本件工事に係る入札の最低制限価格の割合は 10 分の 7.5 としている。
本件契約については、入札した9者が同価であったため、くじにより落札者を決定した。令第 167 条の9では、「普通地方公共団体の長は、落札となるべき同価の入札をした者が2人以上あるときは、直ちに、当該入札者にくじを引かせて落札者を定めなければならない。」と、一般競争入札のくじによる落札者の決定を定めており、令第 167 条の 13 では、「令第167 条の9の規定は、指名競争入札の場合に準用する。」と定めている。
また、規則第 30 条にも、「契約担当者は、同価の入札をした者が2人以上あるため、令第 167 条の9の規定により落札者を決定したとき」と定めており、令第 167 条の9の規定に従って、くじによる落札者の決定を定めている。
よって、本件契約について、最低制限価格を設け、またくじにより落札者を決定したことについては、法令に従って運用されていることを認める。
⑧ 本件工事について
本件管理棟は、築 55 年を経過し、雨漏りが多発するなど老朽化が著しく、また耐震性もない。新大野公民館建設後、社会教育施設としての役割を終え、既に用途廃止されており、公共施設として保有する必要性が低い施設であり、また今後の利活用が見込めない施設でもあることから、本件計画等に従って、有利な財源である、合併特例債が活用できる期限までに、年度間の財政負担の平準化を図りながら、解体することになった。
本件工事の概要等は、以下のとおりである。
ア 工 事 の 種 類:解体工事
イ 契 約 締 結 日:令和5年 11 月 10 日
ウ 工 事 場 所:本市大野町田中
エ 工 期:令和5年 11 月 11 日から令和6年3月 28 日まで
オ 請 負 代 金 額:45,156,375 円(税込み)
カ 構 造:RC造2階建て
キ 床 面 積:1階 660 ㎡2階 612 ㎡ PE 階 36 ㎡
(2) 議会の議決について
議会の議決事項については、法第 96 条第1項で、「普通地方公共団体の議会は、次に掲げる事件を議決しなければならない。」と定めている。
① 法第 96 条第1項第1号では、条例を設け又は改廃することについて、議会は、議決をしなければならないと定めている。
大野公民館の新築移転に伴い、その位置を変更するため、令和2年 11月 30 日に、豊後大野市公民館条例(平成 17 年豊後大野市条例第 114 号)の一部改正(以下「一部改正条例」という。)について、令和2年第4回本市議会定例会に、第 101 号議案として提案され、同年 12 月 18 日に、議会で、出席議員の全会一致により、原案のとおり可決されている。
② 法第 96 条第1項第2号では、予算を定めることについて、議会は、議決しなければならないと定めている。
本件契約に係る予算は、合併特例債である地方債については、歳入予算22 款1項1目の総務債の市有建物解体事業で計上し、一方歳出予算は、2款1項4目の財産管理費の市有建物解体工事請負費として計上され、令和5年度本市一般会計予算として、令和5年2月 20 日に、令和5年第1回本市議会定例会に提案され、同年3月 16 日に、議会で、出席議員の全会一致により、原案のとおり可決されている。
なお、請求人は、「市議会議員の改選前の判断として、合併特例債による解体が承認された。よって、現在の新人議員の判断はされていない。」
と主張するが、本件工事に係る予算の議決は、市議会議員改選前の議員による議決ではなく、令和3年4月の市議会議員改選後の現在の市議会議員によるものである。また、合併特例債は、地方債の種類の一つであり、議会の議決事項ではない。
③ 法第 96 条第1項第5号では、その種類及び金額について政令で定める基準に従い条例で定める契約を締結することについて、議会は、議決しなければならないと定めており、令第 121 条の2の2第1項では、法第 96条第1項第5号に規定する政令で定める基準は、工事については、予定価格が1億 5,000 万円以上と定めている。
また、豊後大野市議会の議決に付すべき契約及び特に重要な公の施設の廃止に関する条例(平成 17 年豊後大野市条例第 59 号)第2条では、「法第 96 条第1項第5号の規定により議会の議決に付さなければならない契約は、予定価格1億 5,000 万円以上の工事又は製造の請負とする。」と定めており、本件契約については、予定価格が 60,208,500 円(税込み)であるため、議会の議決に付すべき契約ではない。
④ 法第 96 条第1項第8号では、その種類及び金額について政令で定める基準に従い条例で定める財産の取得又は処分をすることを議会は議決しなければならないと定めており、令第 121 条の2の2第2項では、「法第96 条第1項第8号に規定する政令で定める基準は、財産の取得又は処分の種類については、別表第4上欄に定めるものとし、その金額については、その予定価格の金額が同表下欄に定める金額を下らないこととする。」と定めており、「不動産若しくは動産の買入れ若しくは売払い(土地につい
ては、その面積が市町村にあっては1件 5,000 ㎡以上のものに係るものに限る。)又は不動産の信託の受益権の買入れ若しくは売払い」と定めている。
また、豊後大野市有財産条例(平成 17 年豊後大野市条例 74 号)第2条では、「法第 96 条第1項第8号の規定により議会の議決に付さなければならない財産の取得又は処分は、予定価格 2,000 万円以上の不動産若しくは動産の買入れ若しくは売払い(土地については、その面積が1件 5,000 平方メートル以上のものに係るものに限る。)又は不動産の信託の受益権の買入れ若しくは売払いとする。」と定めており、本件契約については、議会の議決が必要となる財産の処分には当らない。
以上のことから、本件契約については適正に法令で定める必要な議会の議決を経ていると認められる。
(3) 本件契約について
① 契約方法の選定について
請求人は、「本件工事は、財産の処分が議会により承認された案件による工事であるから、要件設定型一般競争入札(総合評価落札方式)にしなかった点で不当である。」と主張するが、契約方法の選定は、「売買、貸借、請負その他の契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする。」と定める法第 234 条に基づき行えば足りるのであり、議会の議決により承認された契約が、一般競争入札にしなければならないものではない。
よって、不当であるとは認められない。
② 旧大野公民館の解体として誤認したことについて
また、請求人は、「旧大野公民館と旧大野高校校舎が同一であると認識した議員は少なく、『公民館の新設による旧公民館の解体として誤認したものである。』と思料し、本契約が不当な契約である。」と主張している。
しかしながら、令和3年4月の市議会議員改選前となる、令和2年第4回本市議会定例会における、前記(2)の①の一部改正条例の議案審査に関し、当時の厚生文教常任委員会委員長から、「現在、旧大野高校跡地にある大野公民館には、公民館と一体となって体育室及び図工室を設置しています。」との厚生文教常任委員会による議案の審査の経過と結果が、全議員に対して報告されている。つまり市議会議員改選前の議員は、旧大野公民館と旧大野高校校舎が同一であると認識していたものと推認することができる。また、市議会議員改選後の新人議員においても旧大野高校の卒業生や旧大野郡大野町出身者もいることなどから、「旧大野公民館と旧大野高校校舎が同一であると認識した議員は少ない。」とする請求人の誤認したこと及び不当であるという主張を認めることはできない。
なお、議会の議決については、その後に市議会議員の改選が行われたとしても、その議決の法律的な効果が変わることはない。
③ 法 234 条について
本件工事では、令第 167 条第1項第1号の規定に基づき、指名競争入札の方法により、本件契約を締結している。
法第 234 条第1項は、「売買、賃借、請負その他の契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする。」とし、同条第2項は「前項の指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる。」としている。
令第 167 条第1項第1号では、指名競争入札によることができる場合に、「工事又は製造の請負、物件の売買その他の契約でその性質又は目的が一般競争入札に適しないものをするとき。」と定めている。
この「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」については、不特定多数の者の参加を求め、契約の相手方を決定することが必ずしも適当ではなく、普通地方公共団体において当該契約の目的、内容に照らしそれに相応する資力、信用、技術、経験等を有する相手方を選定し、その者との間で契約の締結をするという方法をとるのが当該契約の性質に照らし又はその目的を究極的に達成する上でより妥当であり、ひいては当該普通地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合も「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」に該当す
るものと解すべきであり、このような場合に該当するか否かは、個々具体的な契約ごとに、当該契約の種類、内容、性質、目的等諸般の事情を考慮して当該普通地方公共団体の契約担当者の合理的な裁量判断により決定されるべきものと解するとの判示がある(最高裁昭和 62 年3月 20 日判決)。
この判示は、「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」に該当するかどうかの判断に自治体契約担当者の合理的な裁量が認められる旨を示している。
これを本件についてみると、本市では、合併特例債を活用することができる期限である令和6年度末までに、解体事業及びその他大型事業を、年度間の財政負担の平準化を図りながら、計画的、かつ速やかに進めており、築 55 年を経過し、雨漏りが多発するなど老朽化が著しく、また耐震性もなく、今後の利活用が見込めない施設であり、既に用途廃止され、公共施設として保有する必要性が低い施設である本件管理棟について、本件計画等に従って解体工事を令和6年3月 28 日までに確実に完了するため、指名競争入札による入札の方式を選定することにより、あらかじめ有資格業者、当該工事施工についての技術的適正などの指名基準に基づき、相応する資力、信用、技術、経験等を有する相手方を選定することが可能となり、「不良不適業者を排除し」「信用のある業者に仕事を依頼する」など、あらかじめ一定の資格要件に基づいて、登録している者を指名業者として選定し、競争入札に付して、落札者を決定すれば、契約の履行、能力が担保される。
また、本件工事に対する地理的条件を優先することにより、指名業者は、工事現場への距離が近く、工事現場の地理的状況、気象条件等に関する詳しい知識等を有していることから、契約の確実な履行、緊急時における臨機応変の対応が期待できる。さらに、地元雇用の創出、地元産品の活用等地元経済の活性化に寄与することが思料できるため、指名競争入札を選定した合理性が認められる。
このように本件工事に対する地理的条件を優先することも、そうすることが総体としての本市の住民(納税により公共工事の費用を負担する者、公共工事の経済効果により利益を受ける者など)の利益を損なうことのない限り、合理的な裁量の範囲内にあるというべきである。
本市は、山間へき地の過疎の市であり、台風等の自然災害の被害に悩まされているところ、本市の地域経済にとって公共事業の比重が非常に大きく、また台風等の災害復旧作業には市民と建設業者との協力が重要であることから、少なくとも市民の利益を損なうものではなく、したがって、地理的条件を優先したとしても裁量権の逸脱濫用に当たるものではない。
つまり、合併特例債の活用期限が迫る中、本件工事を令和6年3月 28日までに確実に完了するために、それに相応する資力、信用、技術、経営等を有する相手方を選定し、競争入札に付して落札者を決定し、その者との間で契約を締結するという方法をとるのが当該契約の性質又はその目的を究極的に達成する上で、より妥当であり、ひいては、本市の利益の増進につながると合理的に判断され、あらかじめ一定の資格要件に基づいて、登録している者から指名業者として選定し、競争入札に付し、落札者を選定すれば、契約の履行、能力が担保することができると解する。
④ 契約締結の違法性又は不当性について
法第 242 条第1項に規定する財務会計上の行為のうち裁量的行為について、それが違法となるのは、裁量権の逸脱又は濫用があった場合であり(最高裁平成 25 年3月 28 日判決)、それが不当となるのは、裁量権の逸脱又は濫用に至らない程度の不合理な行使があった場合であると解するのが相当である。
本件請求書によると、「市長は、本件工事を事後審査型としたため9者が最低価格で同額であったため、くじ引きで決定したが、本件工事は、財産の処分が議会により承認された案件による工事であるから、要件設定型一般競争入札(総合評価方式)にしなかった点で不当である。また、旧大野公民館と旧大野高校校舎が同一であると認識した議員は少なく、『公民館の新設による旧大野公民館の解体と誤認したものである。』と思料し、本契約が不当な契約である。」と主張している。
このうち、「議会により承認された案件による工事だから、一般競争入札にしなかった点で不当である。」という主張は、上記①のとおり、不当であると認めることはできず、また、「『誤認したものである。』と思料し、本契約が不当な契約である。」との主張も、上記②のとおり、誤認及び不当であることを認めることはできない。
本件契約の入札方法の決定、最低制限価格の設定、くじによる落札者の決定については、上記のとおり、法令に従って行われている。規則第 32条では、「契約担当者は、落札者を決定したときは、直ちに口頭又は書面若しくは電磁的方法により落札者に通知しなければならない。」と定められており、また、同条第2項では、「落札者は、前項の通知を受けた日から7日以内に契約に必要な書類を提出しなければならない。」と定められており、本件契約は、規則に従って適正に締結されていることが認められる。
地方公共団体の長が解体工事請負契約を締結することは、建物等を解体する目的や必要性、契約締結に至る経緯、契約の内容に影響を及ぼす社会的、経済的要因その他の諸般の事情を総合考慮した合理的な裁量に委ねられている。
上記(1)の本件請求の概要から、築 55 年が経過し、老朽化が著しく、耐震性もなく、今後の利活用が見込めない施設であり、既に用途廃止され、公共施設として保有する必要性が低い施設である本件管理棟を、本件計画等に従って解体する必要があり、有利な財源である合併特例債の活用が令和6年度までと期限があり、また入札方法の選定や落札から契約までの手続等、法令に従って、適正に行われて契約に至っており、本件契約締結が違法又は不当であると認められない。
そうである以上、本件契約の締結における市長の判断に、裁量権の逸脱又は濫用があったと評価することはできず、また上記の事情の下においては、裁量権の不合理な行使があったと評価することも困難である。
したがって、本件契約の締結が違法又は不当であるとは認められない。
よって、本件契約は、適正な契約であることから、「本市に最大
41,051,250 円の損害が生じる。」という請求人の主張には理由がないと判断する。
(4) 本件支出について
① 支出負担行為について
法第 232 条の3では、「普通地方公共団体の支出の原因となるべき契約その他の行為(これを支出負担行為という。)は、法令又は予算の定めるところに従い、これをしなければならない。」と定めている。本件支出に係る予算は、令和5年第1回本市議会定例会で議決されている。また、支出負担行為については、支出の原因となる契約は令和5年 11 月 10 日に締結されており、支出負担行為は支出の原因となる契約に基づき同日付けで支出負担行為決議書により適正に行われている。
② 支出命令について
法第 232 条の4では、「会計管理者は、普通地方公共団体の長の政令で定めるところによる命令がなければ、支出をすることができない。」と定められており、同条第2項では、「会計管理者は、前項の命令を受けた場合においても、当該支出負担行為が法令又は予算に違反していないこと及び当該支出負担行為に係る債務が確定していることを確認したうえでなければ、支出をすることができない。」と定めている。
本件支出に係る支出命令については、本件契約の受注者から提出のあった令和5年 11 月 27 日付けの請求書に基づき、支出命令がなされ、会計管理者による確認の上、政府契約の支払遅延防止等に関する法律(昭和 24年法律第 256 号)の規定に基づき、請求を受けてから 30 日以内の同年 12月8日に適正に支出されている。
③ 前払金について
本件契約に係る契約約款第 34 条では、「請負代金額の 10 分の4以内の前払金の支払をこの契約締結の日から 30 日以内に発注者に請求することができる。」と定めており、契約締結の令和5年 11 月 10 日から 30 日以内の同月 27 日に、請負代金額の 10 分の4以内の 18,000,000 円が本件契約の受注者から発注者である市長に請求されている。
④ 本件支出の違法性又は不当性
本件支出に係る支出負担行為、支出命令及び支出等は、法令に基づき適正に支出されていることが認められた。
また、上記(3)のとおり本件契約の締結が違法又は不当なものではなく、本件契約に基づく公金の支出も、違法又は不当な公金の支出には当たらない。
よって、本件契約に基づく公金の支出は適正に処理されていることから、「本市に最大 41,051,250 円の損害が生じる。」という請求人の主張には理由がないと判断する。
なお、公金の支出の差止めを請求できるのは、当該契約が私法上無効である場合に限られるところ(最高裁昭和 62 年5月 19 日判決)、上記事実関係などから、本件契約が公序良俗に反するものとはいえず、また契約を締結した市長の判断に裁量権の範囲の著しい逸脱又は濫用等があり、本件契約を無効としなければ法第2条第 14 項の趣旨を軽視する結果になる特段の事情があるとはいえない。
(5) 判断
以上のことから、本件契約については、適正に契約が締結され、当該契約に基づき、適正に公金の支出がされており、市に損害があるとはいえず、本件請求は理由がないものとして棄却する。
令和6年3月 14 日
豊後大野市監査委員 芝田 榮造
豊後大野市監査委員 小野 順